国学者の平田篤胤(あつたね)は若いころに江戸で医者をしていた。その門弟への医術の講義で当時の医療の内幕を告発している。今の医者は医術よりも患者をだます悪だくみの方が百倍もうまい−−そう容赦なく糾弾したのだ▲ある医者は患者を信用させるために灰墨で作った丸薬を飲ませ「明日、黒い便が出れば薬がよく回った証拠だ」と言い渡す。その通りになって患者が感心した機をのがさず高価な薬を売りつけるのだ。また組合を作っての集団詐欺もあった▲ある医者にかかった裕福な患者との話で仲間の医者が「あの医者は○○という薬を使うでしょう」と言う。「いえ」と驚く患者に「○○は秘薬でよく効くのに」と言えば、患者は金に糸目をつけずインチキ秘薬の処方を求めるわけだ(氏家幹人著「江戸の病」講談社選書メチエ)