◇ 地声だけの役者

福田恆存 「日本人への遺書」より。

「イギリスの役者は、少くともプロである限り、三種類の声を持つてゐなければ
ならないと言はれるのですが、日本の役者は歌舞伎俳優をも含めて、ほとんどす
べての人が一つ声、すなはち平生の自分の声、地声しか持つてをらず、若い人が
ふけ役を演らされた時以外は、どんな役でも同じその声で片附ける、声ばかりで
はない、喋り方も大して差が無い、といふ事です。
姿勢や歩き方、手の動かし方まで、その役者の実生活における癖をそのまま舞台
で露出して、一向省みない様です。その癖、かつらの色とか衣裳とかには目の色
を変へんばかりに神経質になります。たとへば、この役は自前の洋服で演つてく
れと言ふと、それではいつもの自分から脱け出し、役の人物に成り切れないと言
ふ。
なるほど御尤もと思ふのですが、それなら、地声で喋つたり、普段の癖を丸出し
にした歩き方や笑ひ方では、やはりいつもの自分から脱け出しにくく、役の人物
に成り切れない筈ではありませんか」


まさにそのとおりと思いませんか?
ちょっと古いが、丹波哲郎、三船敏郎、仲代達矢達の顔が直ぐ浮かんでくる。
高峰秀子らの女優連中も話にならない。

三船・仲代等がよく出演した黒沢明監督の作品も、セリフについて言えば酷いモノである。
彼の作品が外国で賞を取ったのは、外国で上映する際は演技者のセリフはすべて字幕
だった。と憎まれ口を叩きたくなる。

なに、英国だけでなくアメリカの役者も相当なものである。
往年の大女優キャサリン・ヘップバーンは70歳過ぎまでヴォイストレーニングを受けていた
という(彼女の声はひどかったが・・・)。

アル・パチーノ、ダスティ・ホフマンらも役柄によって、ころっと音声を変えている。
もっとも、ジョン・ウェイン見たいなワンパターン人間もいるけれど。


「ノーカントリー」「ミルク」「トゥルー・グリット」と話題作に立て続けに出演し注目されたジョシュ・
ブローリン。オリバー・ストーン監督から直々にオファーされたという「ブッシュ」ではジョージ・W・ブッシュ元大統領を21歳から58歳まで演じるため動作や癖を研究し、年齢と状況ごとに8種類の声色を使い分けるまでになったという。演じる人物を自分なりに解釈するため入念なリサーチは欠かせないと語る。


「ハンニバル(主人公)になるきるために声まで変えている」
 映画特効野郎Aチーム
 主演・リーアムニーソンについて共演者のコメント


*福田恆存)、1912年(大正元年)8月25日 - 1994年(平成6年)11月20日)は、日本の評論家、   翻訳家、劇作家、演出家。





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