◇ 大切なことって目には見えないのだよ

サン=テグジュペリ作「星の王子さま」の中で王子さまがこうおっしゃっております。
そして、大人になるに従ってそうなるようである。

勉強をして、経験を積んでものごとが見えてくる筈なのになぜであろうか。誠に不思議としかいいようがない。

「心ここにあらざれば視れども見えず。聴けども聞けず、食らえどもその味を知らず」という言葉(出典『大学』)があるが、心がここにあっても見えないものは見えない。それは人間は自分の経験、知識などのフィルターを透して物事を見ているからである。

「我々が見ている現実をあてには出来ない。人が見るのは、目というレン
 ズ装置が偶然伝え、そして日常の経験によって訂正された映像だけな
 のだ。
 現実とは不確実なもので、それをただ正確に描き出すだけではみるもの
 全てのほんとうの姿は捉えきれない」   
            ーゲルハルト・リヒター(ドイツの画家)

「私は見えるものにでなく、見えないものにこそ目を留めます。見えるもの
 は一時的であり、見えないものはいつまでも続くからです」
            ーギャビン・ライアル「クロッカスの反乱」

「明るいときに見えないものが暗闇では見える」   
            ー映画「緑色の髪の少年」より

「最近,森の中を一時間歩いた友達に「森の中で何を観察したか?」と尋
 ねたら,"Nothing in particular"(別に何も)と彼が答えました。聞こえな
 い,また 見えない私にはそれが信じられない・・・。そこで,見る目と聞く
 耳をいただいた皆さんにアドバイスさせて下さい。                     
 人の声の潤い,鳥のさえずりと楽器のオーケストラの旋律を,明日,聞
 こえなくなると宣告されたかのように聞きなさい。あなたの感覚は,明日
 鈍くなるかのように,物に触れなさい。花の香りと食事の一口ずつを味
 わいなさい。明日味わえないかのように……
 こうして,それぞれの感覚を,フルに使いなさい。しかし,すべての感覚
 の中で,視覚は一番素晴らしいものです」
            ーヘレン・ケラー『Three Days to See』

「画聖ターナーが描いた「夕焼け」の前にふと立ち止まった天文学界の老
 権威が「君,私は今までにこんな夕日を見たことがない,こんな夕日は
 あるはずがない.私は天文学者として断言する」となじる口調で話しか
 けた.ターナーは微笑を浮かべながら静かにこう答えた.「博士,あなた
 はこのような夕日をご覧になりたいとは思いませんか」
            ー出典不詳

「目を閉じればすなわち見え目を開けば即ち失う」
            ー鎮州臨済恵昭禅師語録  

見えること、聞こえることが逆にものごとが見えなく原因になるというのだから皮肉なものである。


・追加(2007.7.24)。
   
       不思議

   私は不思議でたまらない、
   黒い雲からふる雨が、
   銀にひかつてゐることが。

   私は不思議でたまらない、
   青い桑の葉食べてゐる、
   蠶が白くなることが。

   私は不思議でたまらない、
   たれもいぢらぬ夕顔が、
   ひとりでぱらりと開くのが。

   私は不思議でたまらない、
   誰にきいても笑つてて、
   あたりまへだ、といふことが。

     「金子みすヾ」(大正時代の女性作詞家)






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