港にいる船は安全だ。でもそれが船の存在理由ではない

 ネルソン・デミルはアメリカの有名な小説家。
「王者のゲーム」、「将軍の娘」、「プライムアイランド」等のベストセラー
作家である。

その小説は何といっても面白い。
その面白さの大きな要因が主人公たちの会話にある。

「プラムアイランド」では
「港に停泊している船は安全だ。でも、それが船の造られた目的ではない」
といって、大嵐の中、船には素人の主人公がクルーザーを海に出してしまう。
 
ケイトとわたしはグラスの縁を軽くふれあわせた。
わたしはいった。
「スラーンテ」
 「それはどういう意味?」
「健康を祝して乾杯という意味だな。ゲール語だよ。
 おれの半分はアイリッシュなんだ」
 「どちら側が?」
「左半身が」
 「そうじゃなくて、ご両親のどちらがアイルランド系なの?」
「母だよ。父はほとんどイギリス系だ」
   ー王者のゲーム

わたしとケイトは、歩きながらウィンドウショッピングを楽しんだ。
わたしはケイトのケチャップ色のブレザーと黒いスラックスがちょっと
皺にになってきたことを指摘し、新しい服を買ってやろうと申し出た。
「名案ね。でもロディオ・ドライブの店で服を買うとなったら、最低でも
 二千ドルは覚悟してちょうだい」
わたしは咳払いしていった。
「やっぱりアイロンを買ってやるよ」
   ー王者のゲーム    

「このあたりには野生動物がいるのかな?
 「あなた以外に?」
「ああ、おれ以外に」
   ー王者のゲーム

「いいか、ミスターハリール、これでわたしもこの仕事を20年以上
 やっている。これまでわたしが相手にした連中の中でも、君は・・・
 <最低最悪の極悪非道な男だ>と続けたい気持ちをこらえて、
 わたしはこういった。
「・・・もっとも頭のいい人間だな」
  「おまえから見れば、だれでも頭のいい人間に見えるというだけの
   ことだろうが」
ー王者のゲーム

「三人でも秘密は守られる。
 もし、そのうち二人が死んでいれば」
     ープラムアイランド」
      (ベンジャミンフランクリン 貧しいリチャードの暦より) 

「狂気の定義とは『毎回毎回同じことをしていながら、
 そのたびにこんどこそちがう結果になるのではと期待
 すること』だ」
     ーナイトフォール

といった具合に軽口の連発。
口の減らない奴という感じなのだが、なかなかシニカルで思わず
吹き出しそうになるところが凄い。

もっとも、「港に停泊している・・・」はアメリカではかなり有名な
ことわざのようで、デミルはそれを単純に引用したのかもしれない。
アメリカのウェブサイトでは、このことわざを印刷したTシャツまで
販売されている。

"Ships in the harbor are safe,
but that is not what ships were made for"

*日本後版「プラムアイランド」では
 「港にいる船は安全だ。
  でもそれが船の存在理由ではない」
 となっている。
 これは訳者、上田公子の意訳だろう。
 誠に達者なもので、この訳の方が本質を捉えている。







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