これはよく中国の食文化を語るときにでる、ジョークである。
といっても、中国料理の本質(広東料理)をよくついているようだ。
「民は食をもって天となす」
ということわざがある国であるから、とにかく”食”にたいする情熱は世界一であろう。
開高健「開高・閉口」より
「・・・・われわれは何でも食う。空を飛んでいるもので翼のあるものは飛行機のほか何でも食べる。地上にあるもので四本足のものはテーブルのほかは何でも食う」
こういうありさまだから、じっさい広東の街を注意して歩いていても、猫や犬の姿を見かけることがほとんどない。犬を愛玩動物として首に鎖つけてひっばって歩くというような習慣は、まずまずあり得ないもののようである。
あるとき、ホテルのグリルで朝飯の広東麺を食べていると、料理場あたりから、小さな、かわいい猫が、ミャウミャウと鳴きながらでてくるのが眼についた。
そこで向いの席にいる李英儒先生に、さっそく、
「先生、あなたは何でも食べるとおっしゃったけれど、あそこにまだ猫がいるじゃないですか」
というと、先生は眠そうな眼をこすりこすり、ちらとそちらのほうを見てから何食わぬ表情で、
「ああ、あれですか」
といった。
「あれは昨晩の食べ残しです」
田中小実昌が『エッセイ・コレクション2−旅』のなかで、 「中国では、犬が吠えるのも、一度もきかなかった。アメリカでもヨーロッパで
も、犬が吠えるのは、あまり聞いたことがない。犬が人に向かって吠えるのは、
ヤバン国ではないのか」
と書いているが、この人はバカか無知か。
中国では、犬は吠えたくても吠えられない。吠える"犬"そのものがいないのだ。
その何でも食べる中国人が唯一食べられないものはなにか。
それはなんと、なんと、日本の納豆であるという。

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