◇兵隊ほど高くつくものはない

安岡章太郎のおことばである。

その心は・・・を、開高 健氏はこう書いている。

どこの国の軍隊でも戦闘さえなければ、ビクニックか、ままごとめいたものになってくるが、こういうあたりを読んでいると、悲哀とはべつにやっぱりその感が濃くなってくる。
そして唯物的にいえば、そういうときの兵隊は内臓と大脳がぴったりうるわしく仲よく同化して、食って消化して排泄するだけの作業に無上の歓びと親和をおぼえて眼を細くするわけである。しかし、彼らは今日そういうぐあいであっても、明日、動員令が下って、フィリピンヘいかなければならないかもしれないし、十キロかなたの野原で倒れなければならないかもしれない。
「兵隊ほど高くつくものはない。何てたって、兵隊のウンコは肥料にならないんだからね。ただやたらに、たれてまわるだけだ」
ずっと以前に、いつか安岡大兄と戦争の話をしていたら、大兄はいくらか酒に酔ってぶっきらぼうにそういったことがあったが、これは名言だと思う。都会育ちのハイカラの大兄がそういう農民の感覚を持っていることにいささか私はおどろいたけれど、よく考えてみると、日本の軍隊は市民の軍隊というよりはより濃く、より深く、より上から下まで農民の感覚で構成され、発動されていたように思えるので、そのなかでシゴキぬかれてきた大兄としては当然のところに眼をすえたのかもしれない。
兵隊は無化され、氾濫し、そして、とどのつまりは、糞まで無化するのだ。
  ー「最後の晩餐」

兵隊といえば銃である。
兵隊が、銃弾をどのくらい撃つかというと、

「戦争において、一人の戦闘員を殺すのに使用される弾薬は第一次大戦ではおよそ8千発。それが第二次大戦では約5万発に増えた。
そして、ヴェトナム戦争では戦闘員一人の殺害につき弾薬約20万発消費された。戦闘の形態が、狙いを定めて敵兵を射つのではなく、とにかく銃弾を浴びせかけるというふうに時代とともに変わってきている。
核戦争でもないかぎり、この傾向はますます強まることは明らかだった。どの国の軍事関係筋も次の通常戦では一人の戦闘員を殺すには25万発以上の弾薬が必要になると読んでいる。AK47の弾薬の値段は約45円。25万発を基準に考えると1,125万円かかることになる。10万人の戦闘員を殲滅するとなると.・・・」  
    −船戸与一 『血と夢』 
という恐るべき数字になる。    

いずれにしても「地獄の沙汰も金次第」というが、戦争もまさにそう。
これだけの弾薬を使うと言うことは、前線にそれを配達する輸送部隊などなどの体制も大きくなることを意味する。
だから、「金」がある国が戦争には絶対勝つ。というのが実態である。
従って、米国は必ず勝つという結論になる。
では、なぜベトナム戦争では負けたか?
これは現代の奇跡である。
しかし、これについてはここでは触れない。

以下は、開高 健氏のベトナム戦争従軍記者としての記録である。

連発銃というのは浪費の思考である。
一発射って、次の一発をボルトをひねって弾倉に送り込み、再びそこで狙いをつけて、引金をひいて---ということをやっていると遅れをとって、こちらがやられてしまう。
射たれた人間は狙われてるとさとると反射的に頭をひっこめるか、体をかくすか、よこへころがって逃げるものである。
だから、逃げられないようにするためには狙いの正確さは二の次で、何が何でも間断なく連射することである。
息もつかせず射ちまくることだ。目標が狂っているように見えても、目標それ自身が瞬間瞬間に移動するのだから、
それに合わせることとなって、かえって正確になるのである。軽い武器は狂いやすいという鉄則があるが、多少狂って、弾丸を浪費したほうが、かえって命中しやすくなるのだから、それでこちらがやられないということになれば、結果としてこのほうが"安上り“なのだという患考である。浪費したほうが経済だとい思考である。
これは"西側”でも"東側"でもまったくおなじである。
アメリカ製のM16もソヴィエト製のK47AKも、思考はまったくおなじなのである。どちらの銃で狙われても狙われた人間は戦争をかさねるごとにいよいよ逃げにくくなる。だから、大砲や、爆弾などを使わないで、かりに双方が携帯用小火器だけで戦争をしたとしても、被害のすさまじさと洩れのなさは前時代にくらべるとお話にならない発達ぶりである。
そうなると弾丸の浪費の度合いも前時代にくらべてお話にならない旺盛さだから、それはとりもなおさず、予備のカートリッジをいくつも持っていかなければこのなのであり、歩兵の肩や腰はいよいよ重くなるのである。歩兵のつらさはいよいよ増すばかりだから、「戦争を知りたかったら歩兵に聞け」という金言はますます金言になるのである。


ちなみに「M16」はゴルゴ13の愛用銃である。





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