◇間違いは間違いではない

悪魔さまのおことばである。

職場で悪魔部長のことを部下が
「悪魔課長」
などと間違えて呼んだとする。
この部下は悪魔部長のことを内心では「部長」として認めておらず、その潜在意識が「課長」発言になったのだと心理学者のフロイトは言う。
客先に持っていく書類を電車に置いてきてしまったとしたら、それを持っていくのはまずいと潜在意識が感じているからである。

「便秘症の人は吝嗇である」
フロイトの言葉である。
ケチが身に染みしみこんだ人間は、何一つ出したくない。その現れだというのだ。
ホンマカイナ!
と言いたいところだが、将棋四冠王、羽生善治の終盤での逆転勝利は有名(ハブマジックという)だが、これは羽生が鬼手を指したというより、相手が勝手に間違うことが多いようだ。
フロイト説によれば、羽生の対戦者は「自分が羽生に勝つはずはない。今、勝ちそうな局面だが、最後は自分が負けるのだ」と潜在意識のなかで考えている。
それが、敗着の一手を生むということになる。

つい最近、この悪魔さまは続けざまに通勤定期券を紛失した。
これは単に会社に行きたくなかったという潜在意識の表れである(?)。
交通事故を起こす人間は決まって何度も起こす。
これは「自殺願望」なのか「破産願望」なのか。

このような、人間の内面にある観念に行動が左右されるのを見事に詠んだ歌がある。

 手を打てば
 鳥は飛び立つ
 鯉は寄る
 女中茶を持つ
 猿沢の池 
 <詠み人知らず>

「諸君はだれがケチか浪費家か、すぐわかる方法を知っているか。
 第一の方法はその相手に親指をうしろにそらさせるやり方だ。
 非常によくそるやつは浪費家であり、いくら力を入れても指の直立してい
 るやつはケチである。
 第二の方法はその相手に便秘症かどうか尋ねることである。
 精神分析の医者たちによると便秘症の人は大体においてケチだそうであ
 る。
 つまり彼の胸の中では、おのが物は何でも堅く握りしめておこう、決して
 外には出すまいぞという心がたえず働いていて、それがたとえ自分のウソ
 コであれ、体外に排泄して人手に渡すのが惜しうてならんーこういう心理
 がおのずと彼(彼女)を便秘にするのだという。
     -遠藤周作「ぐうたら生活入門」


昔々、街を歩いていたカーク・ダグラスが通行人に
「あんたのベンハーは素晴らしかったね」と声をかけられたそうだ。
苦笑いをうかべたダグラスが
「いや、あれは別の俳優だから」と答えると、通行人は驚くように
いった。
「え、あんた、バート・ランカスターじゃなかったの」
  ー芝山幹郎 (スターは楽し 文藝春秋 2007.12)







アクセスカウンター
 [カウンター]