◇汚職は国を滅ぼさないが、正義は国を滅ぼす

山本夏彦氏(「やぶから棒」新潮社)のお言葉である。

氏は2002年10月23日、胃ガンの為死去した。87歳。
本音でせまる辛口コラムニスト。出版社・工作社社長で同社のインテリア雑誌「室内」編集長。

この「悪魔のことわざ」にも何回も登場頂いているだけに、まことに残念の極み。

山本夏彦氏の名言の数々を集めた。
氏はまさに、日本のマーク・トウェインである。

「ワイロは浮き世の潤滑油である。もらいっこない人は自動的に正義漢になるが、
 一度でももらってごらん、人間というものが分かる。
 古往今来正義の時代は文化を生まなかった。
 『文化は腐敗の時代に生まれた』と昔,渡部昇一は言った。卓見である」
    『週間新潮 95.7』

「タバコの害についてこのごろ威丈高に言うものが増えたのは不愉快である。
 いまタバコの害を言うものは、以前言わなかったものである。
 いま言う害は全部以前からあったものである。
 それなら少しはそのころ言うがいい。
 当時何も言わないで、いま声高にいうのは便乗である。
 人は便乗に際して言うときは声を大にする。
 ことは正義は自分にあって相手にはないと思うと威丈高になる。
 これはタバコの害の如きでさえ一人では言えないものが、いかに多いかを物語る
 ものである」 
    『良心的』 
 
「30枚のものを10枚に、10枚のものを3枚に削るのが私の仕事だ」
    『文藝春秋 2002.8』

「むしろ短くせよ、一言でいえ」
    『良心的』

「イデオロギーの相違は根本的かつ絶対的で、話し合いで解決できるようなもの
 ではない。もし話しあいで理解に達したら、それは理解ではなく屈服したのだ」
     『かいつまんで言う』ダイアモンド社

「私は衣食に窮したら、何を売っても許されると思うものである。女なら淫売し
 ても許される。ただ、正義と良心だけは売り物にしてはいけない」
     『二流の愉しみ』講談社
 
「アポロは月に着陸したという。勝手に着陸し、次いで他の星にも行くがいい。
 神々のすることを人間がすれば、必ずばちが当たるといって分かりたくないもの
 は分かるまい」
     『毒言独語』実業之日本社

「『愛する』という言葉を平気で口に出して言えるのは鈍感だからだ」
     『つかぬことを言う』平凡社

「大昔から食いものを捨てる国民、助平の限りを尽くした国民は滅びました。ギ
 リシャ・ローマの昔から王侯貴族だけが独占できた贅沢です。それを100年に
 一回くらいずつ革命を起こし、人類は健康を保ってきたのです。ところが20世
 紀末の現在、大衆が食い物を捨て助平の限りを尽くしても倒す人がいなくなった。
 まるごと倒れるほかなくなりました」
   ー毎日新聞・平成十年七月二日

「身辺清潔の人は、何事もしない人である。できない人である」
   『茶の間の正義』文藝春秋

「人は言論の是非より、それをいう人数の多寡に左右される」
   『日常茶飯事』工作社

「ひとたび探せば必ず無い。」
    (かたずけない自分を反省せずに)

「私は断言する。新聞はこの次の一大事の時にも国をあやまるだろう」
    「豆朝日新聞』始末」

「二十七年前(昭和四十年)山口証券が倒産に瀕したとき大蔵省と日銀は山一を
 助けた。当時山一はまだ株屋である。世間の評価は高くなかった。株屋を見はな
 すチャンスだった」
   「夏彦の写真コラム」平成四年六月四日

「神は細部にこそやどる」
  
「一人安全かつ居丈高なのは新聞の正義だけである。けれども、およそ大ぜいが
 異口同音に言う正義なら安物で眉ツバにきまっている。
 たとえ肉体は売っても、正義を売り物にするなかれ、と古人が言っている」
     -同上 『昭和63年10月13日』

「私はジャーナリズムを嫌悪し、かつ軽蔑しながらなお長年そのなかで衣食して
 きたものである。だから、せめて自分でも信じないことは書くなと言いたい」
   ー同上 『平成元年1月26日』

「大蔵省は銀行が一行つぶれたら恐慌がおこると恐れるが、アメリカでは年中つ
 ぶれている。我が国だって東洋信金は事実上つぶれたが痛くもかいくもなかった
 ではないか」
   ー同上 「平成四年十月十五日」

「銀行は国民の敵ですぞと私は何度も言ったが、実はその背後にいる大蔵省が
 敵なのである。不良銀行をつぶしたらそれが波及して優良までつぶれる、つぶ
 れたら大衆の預金はふいになる。それを守るために銀行を助けるのだと、大蔵
 省はこの期に及んでもなお預金者に恩を着せるのである」
    「オーイどこいくの」

「齢をとって利口になるのなら歳をとった価値はあるが、白髪は知恵のしるしでは
 ない。それでは若くさえあればいいのかというと、あれは今の老人の0十年前の
 姿だから同じく何の価値もない]
    「良心的」

「日本人とは何か、一口で言ってみる。あれは『ニセ毛唐だ』」
    「良心的」

バカが三人集まると三倍バカになる

「年寄りの馬鹿ほど馬鹿なものはない」
   
「みんな金髪や茶髪。でもこれはしょうがない。われわれは日本人ではない。
 『脱亜入欧』。明治時代からずっとそうです。『にせ日本人の』の極みです」
   ・W杯日本代表の髪型について 毎日新聞・平成十四年六月十九日

向田邦子を評して、
「彼女はいきなり現れて、ほとんど天才であった」

「我々はある国に住むのではない、ある国語に住むのだ。祖国とは国語であり、
それ以外の何ものではない」
  ー 山本夏彦が繰り返していたシオランの格言

「人の人生はちょうど50冊の手帳程度のものだ。
 高く積めば一メートル。横に広げれば一坪。
 そのぐらいの程度である」
  ・・・氏は生涯50冊の手帳(日記?)を残した。

[山本夏彦の文章について・・・
  「この人の文は気味が悪い。
   虚無の深淵をのぞく思いがある」
      ー福田恆存

PS。息子の山本伊吾氏によると、生前氏が主宰していた雑誌「インテリア」では
   「生き様」などという言葉は絶対許さかったという。
   当たり前だけど、NHKのベテランアナウンサーでも使うこの言葉何とかならん
   ものか。

*2003.11.15 追記
*2007.7.22  追記





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