◇忘却とは忘れ去ることなり

忘却とは忘れ去ることなり。
 忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ。

NHKの歴史的ラジオドラマ「君の名は」冒頭のナレーションで有名である。
原作者は菊田一男。氏の眠る八王子の墓前にはこの句を刻んだ碑が建っている
そうな。

忘れることは(特に)年寄りの特権である。
名前を忘れ、顔を忘れ、食事したのを忘れ・・・・
忘れるタネは尽きマジ。というところである。

惚け老人、痴呆症、アルツハイマーなどの言葉は病気ありなしに係わらず
「忘れる症候群」を表す言葉である。
それは皆良い意味には取られない。
だが、そうだろうか?
と悪魔は考える。
忘れることを発明したのは”神”の数少ない功績である。
どんなにグルメでも一日三度の食事を一年分覚えていたら、脳はパンクしてしま
う。
イヤな奴に意地悪されて酷い目にあったことも、全部覚えていたらノイローゼに
なるか暴力に訴えることになるかも知れない。

プラス思考といわれている連中はイヤなことを忘れる名人ではなかろうか。
その代表が長島である。
彼は忘却王である。
脳梗塞で倒れても多分大丈夫。
昔、プロ野球選手だったことを忘れてしまえば車いす生活もへっちゃら、というわけである。

年寄りが嫌われるのは忘れることではなく、覚えていることである。
昔の自慢話。これは何年経っても、何歳になっても忘れない。
だから死ぬまで繰り返すことになる。

せっかくの”神の思し召し”である。
良いことも悪いことも、仕事も家庭もそして漢字なども全部忘れてしまう。
テレビを見るのを忘れれば、下らないバラエティー番組など見なくて済むという寸法だ。
メシを食うのを忘れれば食事代が助かる。
酒を飲むのを忘れれば肝臓が助かる。
家を忘れればそこに帰らなくても済む。
借金をしたのを忘れれば返さなくても済む。
良いことだらけなのである。

悪魔的「忘却のススメ」である。


「私がいつも忘れてしまうものが3つある。
 名前、顔、3つ目は、・・・・・何だっけ」
     ーイタロ・ズヴェーヴォ(イタリアの小説家) 

「最近物忘れが激しいので心がけていることが
 あるんですよ」
  「どんなことをするんですか?」
「へっつ、なんのことでしょう」
    ー悪魔

「物忘れ
 日雀(ひがら)すずめが舌打ちす」
  ー林郁子(悪魔の姉)

 




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