悪魔のダーウィン賞
■ 陽はまた昇る

NHKの「プロジェクトX」のなかで好評だったものを東映が映画化した際の題名である。
70年代これからの家電製品の中心になると判断したソニーが大々的に発表したのがベータ規格の家庭用ビデオ(ベータマックス)であった。
当時はまだ、放送局でビデオが使われているだけだった。他の電氣メーカがベータ規格に傾くなか、ビクターのお荷物であるVTR事業部の責任者加賀屋事業部長は合理化の波が押し寄せるなか、リストラを行わず本社に極秘の開発プロジェクトを編成し、独自のVHS方式の家庭用VTRを開発、ついにはベータ規格に勝ち、見事に世界標準とまでになった。というストーリーである。
これは元日経新聞記者佐藤正明の著作「映像メディアの世紀 ビデオ・男たちの産業史」・日経BP社)を元にしたものである。多分NHKものもこれが原作であろう。
問題はこの記者のいい加減な取材が始まりである。

確かにVHSはベータ規格に勝った。これは間違いのないところだが、何故勝ったのかはこのプロジェクトとは別の話である。
NHKの「プロジェクトX」もそうだが、あまりに美談仕立てにしすぎである。

何故、VHSが勝ったのか?
それは多分、いろいろの要素があったのだろうが、何と言っても一番大きかったのは松下幸之助の決断で松下電器がVHSを採用したことにつきるだろう。
技術的に見て、画質、操作性とも明らかにソニーが優っていた。VHSが勝っていたのは録画時間だけ。(ベータ:一時間 VHS:二時間)
また、VHS規格がディファクトスタンダードとなった要素として知られているのは、ビクターが開発した技術を他社に公開してVHS規格の仲間づくりをした結果、松下、三菱、日立、シャー プ、赤井電機がVHS陣営に入ったこととされている。
しかし、これはウソ。ソニーはベータマックス等開発に伴い取得した技術を、松下、ビクターに公開していたのである。ビクターが短期でVHS方式を開発できたのはこのことによる。このあたりの経過はソニー社が自社のホームページに堂々と掲載している。
http://www.sony.co.jp/Fun/SH/2-2/h1.html
ビクターの反論が欲しいところである。

VHSの成功要因は、松下を含む陣営の力により欧米諸国の電機メーカーへのOEM販売攻勢により「海外はVHS」というムードを作ったのと、これは悪魔の私見だがVTR普及と共に凄い勢いで増えたVHS主流の「ビデオレンタルショップ」の影響であろう。また、裏ビデオの存在を理由に挙げる人もいる。いずれにしても、ソフトビジネスの存在が大きくなってきたのである。

さて、その後である。

昨年度の国内での家庭用VTRの売り上げは何と1位:松下 2位:ソニー 3位:ビクターという順位である。ソニーはしぶとい。そして、ビクターはVTR一台売るたびに赤字がでるという噂もある。それが本当ならまたしてもVTR事業はお荷物になってしまう。

それは別としても、DVD録画方式でまた戦争になるであろう。

技術音痴が作り上げた「陽はまた昇る」関係者各位にダーウィン賞を進呈する。


(2002.7.11)


                      
     

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